塩分控えめは、誰のため?
今期の朝ドラ「まんぷく」で、主人公夫婦は今お塩作りを頑張っています。
土曜日は塩が効いたラーメンがおいしい!というハッピーな終わり方をしていました。
塩味がちょうどいい料理は、とてもおいしく感じます。
ところが、今はいかに減塩するかということがよくいわれています。
特に日本食は塩分とりすぎになるということで、気を付けるように警告されています。
WHOの一日当たりの塩分摂取量は6gを勧めているのに対し、日本人は12gほど摂っているそうです。
塩分のとりすぎは、何がよくないのでしょう?
塩つまり塩化ナトリウムは、体内ではナトリウムイオンと塩素イオンになって存在しています。
ナトリウムイオンは+の電気を、塩素イオンは-の電気を帯びます。
このように水溶液中でイオン化する物質を電解質と言います。
電解質は血液と細胞とでの物質のやりとりにかかわっています。
血漿浸透圧というもので、電解質の濃さの違いで液体が移動する力を使って、物質が血管壁や細胞膜を通過しています。
血漿浸透圧は主にナトリウムイオンの濃度が決めていて、血中では約0.9%に保たれています。
この濃度が乱れると細胞とのやりとりができなくなるので、0.9%が保たれるよう厳密にコントロールされています。
そのため、塩分を取りすぎて血中塩分濃度が高まると、それを薄めるように喉の乾きを感じるよう脳から指令が出ます。
喉が乾いて水分を摂ると、血液量が増えます。
血液量が増えると、それを回すのに心臓がより力強く拍動する必要があります。
その結果、血圧が高まるのです。
高血圧そのものは、病気ではありません。
しかし、高血圧になると血管壁を傷つけてしまい、それが心筋梗塞など様々な疾患の原因になってしまいます。
塩分を控えた方がよいのは、血圧が高めの人ということです。
逆にいうと、低血圧の人は、血圧をあげるため、少し塩分を摂った方がよいということになります。
必ずしも減塩=健康、という訳ではないのです。
ただし、過剰な塩分摂取は腎臓に負担をかけることにもなります。
血液量が増えるということは、それをろ過する腎臓も仕事が増えます。
腎臓には尿量の100倍の血液が通過してろ過されているんです。
さらに水分を増やして塩分濃度を薄めるのが一時的対応ですが、慢性的に塩分濃度が高いときは腎臓が適正なパーセンテージになるよう、ナトリウム排出量を多くします。
そういうコントロールをし続けることは腎臓の負荷になります。
塩分は、血漿浸透圧の維持に必須の物質ですが、たくさんあっても少なくても問題になります。
からだが頑張ってその量をコントロールしてくれていますので、できるだけ負担をかけないよう、もっと多目がいい人も、少なくした方がよい人も、その量に気を付けて摂るようにするのがよいと思います。
ブラック企業の社長になっていませんか?
今や社会問題になっている、ブラック企業。
長時間労働やパワハラ、サービス残業、有休が取れないなど、社員の人権をないがしろにした雇用形態を続けている会社をいいますが、そんな会社に勤務していたら身も心もすり減ってしまいます。
そんな会社の社長とは、どんな人間なのか。。
社員が黙っていうことを聞いて働いてくれればいい、そんな風にしか考えていないのかもしれません。
一方、優れた会社の社長とはどんな人物像でしょうか。
社員のやる気を引き出し、任すところは任せて失敗を恐れず新しいことにもチャレンジさせてくれる、福利厚生が充実、休みもしっかり取れて、給料もよい!
こんな条件を満たしている会社は実際にはそう多くはないのかもしれませんね。
どうして社長の話など?と思いますね。
それは誰もが自分のからだにとって、社長のような存在だからです。
これまで、東洋医学的にからだをみるときは、会社のように考えるとわかりやすいと説明していました。
肝・心・脾・肺・腎の五臓とそれの表裏関係にある胆・小腸・胃・大腸・膀胱や奇恒の腑といわれる脳・髄・骨・脈・胆・女子胞(子宮)などによりからだが構成されていて、気・血・津液がその間を絶え間なく行きかっている。
それが企業活動のように例えられるということです。
肝・心・脾・肺・腎が部署であるなら、肝心の社長は誰なの?というと、それこそが自分自身になるのです。
東洋医学で説明しなくても、60兆個ともいわれるすべての細胞は、その人間を生かすために日々絶え間なく活動していますね。
これは60兆もの社員が、会社のために日々働いていると考えることもできます。
彼らは非常に優秀で、真面目に勤務にあたっています。
それを当たり前のように考えて、知らず知らずのうちに、社員に負担をかけていないでしょうか。
暴飲暴食(過重労働)、夜更かし(サービス残業)、ストレスをため込む(パワハラ)など、社員に無理なことを強要していないでしょうか。
からだは多少の負荷は受け止めてくれて、こなしてしまいます。
でも度が過ぎると、さすがの社員も疲弊してしまいます。
予算(血)が足りないのに同じ結果を求めても、よいパフォーマンスはできません(腰痛など)。
仕事をしていない上司がいたら(気滞)、社員のやる気は低下します(うつ)。
社員からの声(痛み)を無視して、黙らせて(鎮痛剤)はいないでしょうか。
そうはいっても、社長は現場の細かいことまではいちいち見ていられないかもしれません。
何が原因で会社の状況がおかしくなっているのか、わからないことも多いでしょう。
そういう時、鍼灸師はコンサルタントのように、今からだのどこが原因でこうなってしまっているのかを探ることができます。
そしてその改善のお手伝いをしていきます。
からだを、自分のいうことをなんでもきいてくれる自分と一体のものと考えないで、自分を支えてくれる大切なパートナーと考えると、からだを大事にすることがいかに重要か見えてくるのではないでしょうか。
ぜひ社員からの声に耳を傾け、快適な職場環境をつくってあげてください。
からだは一生懸命あなたを応援してくれると思います。
そのためのご相談は、いつでもどうぞ。
水は、1日2リットル飲んだほうがよいのか?
ダイエットに効果的とか、健康になるということで、たくさんお水を飲むことを心がけている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
水はからだに不可欠ですが、摂り方には少し注意が必要です。
水を飲まない方がいい場合もありますし、よくない飲み方もあるからです。
水は、一人あたり一日2リットルくらい必要です。
だから2リットル飲む必要があるかといえばそうではありません。
水分は食事から1リットルくらい摂れており、からだの中での代謝産生物として300mlくらいの水分が得られますので、飲料水としては1リットル程度飲めばバランスがとれます。
特に日本の食生活は食事に含まれる水分が多いので、自然とたくさんの水分をとっていることになります。
水分が足りないときは喉が乾くという感覚がアラートとしてありますから、喉が乾いたな、というときに水分をとれば問題はありません。
水分をとらない方がよい場合
冷えているとき
水は常温でも体温より低いので、水を飲んだらいったん内臓が冷やされてしまいます。
冷たい水ではなおさら冷えが強まります。
冷えた水は内臓を通る血液も冷やし、からだとしての冷えの原因になります。
冷えているときは体温の維持にエネルギーを向けなければならないのに、さらに冷やすものが入ってきたら、余計冷えますね。
冷房の効いた室内で冷たいものを飲むのはよくないです。
食事中
味が濃かったりすると水を飲みたくなりますが、そういう自然な欲求は問題ないです。
特に喉の乾きを感じてなかったり、ガブガブたくさん飲むと消化液が薄まって消化が悪くなりますし、せっかく温かいものを食べても冷えてしまって胃腸の働きが鈍ってしまいます。
脱水を起こしかけているとき
脱水症状のときは、水を飲むと吐いてしまいます。
少し塩分の入ったものでないと電解質の浸透圧が狂ってからだが受け付けないのです。
そのため、暑く汗をたくさんかいたときは、水と一緒に塩分を摂る必要があります。
水分の摂り方
食べ物から摂る
さきほども書いた通り、食べ物から水分を摂るとからだに負担がかかることなく自然に吸収することができます。
食べ物としての水分は温かいものが多いのもよいポイントです。
果物は水分が多いですが、糖分も多い上、冷やして食べることが多いので、たくさんは食べない方がよいと思います。
また、アルコールはかえって脱水を起こします。
喉が乾いたときのビールは美味しいですが、水分が補われているわけではないと考えた方がよいです。
一気飲みしない
水分を摂るときは、少しずつ飲むのがよいです。
なるべく温かい方がよいですが、暑いときは必要以上に汗をかくことになりますので、そのようなときは常温で。
朝起きたときに少し白湯を飲むと、からだが温まり、胃腸も動き出します。
喉が乾いたときに飲む
前述の通り、水分量が少ない場合は喉が乾きますので、そのときに水分をとればよいです。
夏の暑い時期などは、喉が乾いたときにはもうかなり水分が失われていることもありますが、通常はそんなに先回りする必要はないです。
水をたくさん飲む健康法は、乾燥した風土で、食事内容も異なる欧米であれば有効かもしれません。
日本は、乾燥するといっても真冬の太平洋側の地域で限られた状況で、真冬であれば蒸散する水分量もあまりありません。
必要以上に水を飲んでも尿として排出されるだけで、腎臓に余計な仕事をさせるだけです。
塩分や糖分が多い食事と合わせて水を摂ると、余分な水分が排出されずらくなり、むくみや高血圧の原因となってしまいます。
なにかひとつのものだけをたくさん摂るのは、水に限らず健康法とは言い難いと思います。
自分のからだがきちんと正しい反応を示してくれるよう日々無理なく過ごすことが、健康法と言えるのではないでしょうか?
菌がなくても膀胱炎になってしまう理由とは。
寒くなったり、疲れたりすると、あのイヤーな感じが。。
膀胱炎を繰り返す方は多いですね。
膀胱炎は一般に、大腸菌などの雑菌が尿道から侵入して膀胱に炎症が起こる病気です。
通常膀胱は無菌状態なんですが、抵抗力が落ちていたりすると菌に対抗することができなくなってしまうのですね。
女性の場合、尿道が短いので膀胱へ菌が入りやすいという解剖学的な傾向もあります。
膀胱炎の主な症状は
- 頻尿
- 排尿痛
- 残尿感
- 尿が濁る
- 血尿
などがあります。
さらに腎臓まで菌が侵入すると、腎盂腎炎となって発熱してしまいます。
こうなるとつらいですので、膀胱炎の段階で治療しておきたいところです。
一般に細菌感染症には抗生物質が処方され、これで菌が死滅すれば症状が収まって治るわけですが、細菌の排出のため、水分をたくさん摂り、トイレに行く回数を増やすのも、膀胱炎の治療として行われています。
こうして細菌を排除することで治る場合はよいのですが、案外細菌がもう膀胱炎を起こすほど見られなくなっても、不快感とか尿意の切迫感が取れないということも多くあります。
間質性膀胱炎とも呼ばれることがありますが、こうなると治療が難しくなってきます。
このような原因がはっきりしない膀胱炎に、鍼灸治療という選択はおすすめです。
東洋医学での膀胱炎の考え方
膀胱炎は、炎症反応の一種であり、東洋医学でも熱が膀胱に影響して発症すると考えます。
からだの中の余分な熱が膀胱にこもって、または他の臓腑からの熱の影響で膀胱炎になってしまう訳です。
こういう膀胱炎の時は、尿の色が濃かったり、臭いがしたりなど、熱性の反応がみられます。
膀胱自体が熱をもつ腑ではないので、膀胱に熱が及ぶ機序は少し複雑になりますが、要は五臓のどれかの虚の影響で熱が発生しているので、そこを治療していけばよいということになります。
これは細菌感染性の膀胱炎に似ているかなと思います。
膀胱炎で鍼灸治療とは思いつかないと思いますので、抗生物質を飲んでしまった方が早いかもしれませんが、鍼灸に通っている方でしたら、都度の治療で楽になると思います。
抗生物質で下痢しやすいとかいうことがある場合も、鍼灸治療はよいと思います。
さて、抗生物質を飲んでもスッキリ治らない、病院で調べたら菌はもうあまりみえないと言われたというような場合の膀胱炎はどう考えればよいでしょうか。
これは膀胱の働きが落ちている状態です。
東洋医学のからだの生理では、膀胱は腎が回収した余分な水分を溜めておく場所ですが、腎が虚していると腎の水分コントロール機能が低下しますので、必要以上に水分が膀胱に送られたりなどして膀胱に負担がかかります。
腎が虚すにはその親の肺がうまく働いていない場合もあります。
肺は通調水道といって、からだ中に水分をいきわたらせる働きがあります。
肺がからだ中に撒いた水を、腎が回収するというイメージです。
そのため、肺が悪くても、水分代謝に影響が出ます。
また、腎はからだ全体を通じて、堅く引き締めるという働きがあるのですが、その働きが弱まると尿を溜めておくことができず、頻尿になります。
なお、驚いたときに失禁することがあるのも、一時的な腎虚です。
「驚」は腎と同じカテゴリーの五情で、腎に影響を及ぼす感情ですので、驚くことで腎の引き締める力が失われてしまうのです。
さて、余計な水分が多くなっているということは、冷えている状態ともいえます。
冷えているのでさらに機能低下という悪循環になっているため、この場合の膀胱炎は下腹部や腰を温める、または冷やさないことが大事になってきます。
例えば足元が冷えるオフィスで座ったままの長時間に及ぶパソコン作業などは、悪化の原因になります。
エアコンの温風やPCで上半身は暑いくらいとなると、ますますからだの上の方に熱が集まってしまいます。
膀胱炎にかかりやすい方は、冷えない環境づくりを工夫してみるのも予防につながります。
熱によるか冷えによるかで治療は変わってきますが、陰を養ってあげるというところは同じですので、睡眠をとって休養することが大事です。
今日は立冬、冬の始まりです。
二十四節気での季節の区分けでは、今日から節分までの3ヶ月が冬となります。
これから紅葉が各地で見られ、秋が深まり始める時期なのですが、暦の上では冬になるんですね。
残暑見舞いとなる立秋も八月の始めですし、季節感がずれているようにも思います。
しかし二十四節気は太陽と地球の角度つまり陽の長さで決まっていて、一番日の短くなる冬至が冬の真ん中に来るようになっています。
夕方の五時頃にはもう暗くなってきました。
暗くなると、早く帰りたくなりますね。
冬になりますので、秋の養生はそろそろおしまいになります。
秋は夏の暑さを発散させ、冬に備えて収斂していく時期でしたが、冬はそうして準備したエネルギーを蓄えたまま、閉じ込もってじっとして過ごすのがよい時期になります。
五行で冬は水のカテゴリーに属し、腎(五臓)、北(五方)、寒(五気)、黒(五色)、蔵(五能)、恐(五情)などが同じです。
冬によいとされる養生とはどんなものがあるでしょうか。
早寝して遅く起きる
陽を消耗しないように過ごすため、夜が明ける前から起きないで、なるべく長く寝る方がよいとされます。
冬は陰のさかんな季節なので、陰の時間である夜に休んで陰を養うのがよいのです。
汗をかかないようにする
汗をかくと収蔵していた陽を消耗するだけでなく、冷えて風邪を引きやすくなります。
他の季節のように積極的に活動したり、たくさん運動したりしないで、おとなしく過ごすのがよいとされます。
じっとするといっても、何もしないでいては気がめぐりにくくなるので、太極拳とかストレッチなどのゆっくりした動きの運動がよいと思います。
からだを温める食事を摂る
陰を養うとは、冷やすということではありません。
陽が活動のためにエネルギーを使うとすると、陰はエネルギーを補充することになります。
また、血や津液は陰にあたります(気は陽にあたる)ので、陰を養うとは、血や津液を増やすようなことをするのがよいということでもあります。
下半身の冷えに注意する
冬は五行の方角でいうと北、五気では寒です。
人体では北が下、南が上になるので、下半身が冷えやすくなります。
腰痛、膀胱炎などの症状になりやすいので、足や腰を冷やさないよう気を付けるのがよいです。
おおまかにはこのような感じになります。
一年のうちの1/4は、このようにからだを養う時期にあてると健康に過ごせると東洋医学では考えます。
冬に活動しすぎると、春に影響が出ます。
行事の多い時期ですが、長い夜をゆっくりと家族と過ごしたり、読書など自己を充実させたりすることを心がけて過ごしてみるとよいと思います。
東洋医学ではからだをどうみているのか3~寒熱
これまで、からだを冷やすのはよくないよ、とかからだを温めるのに大事なこととか、「冷え」を悪者のように書いてきました。
しかし、「熱」も様々な病気のもとになります。
陰陽のバランスの乱れによって冷えたり熱がこもったりする訳で、それが症状として現れると病変として自覚されます。
冷えも熱もちょうどよい状態を保つのは事実上無理で、冷え傾向だけど特に問題なく過ごせていればそれも体質のひとつであり、病気ではありません。
要するにバランスの乱れといっても程度問題なんですね。
陰陽については、この記事をご参照ください。↓
なので、そのバランスが傾いたときにどのような病変となるかを把握しておくと、どういう状態なのかを理解しやすくなるかと思います。
陰と陽はからだの中で、陽が活動のエネルギーを作り出し、陰はそれを冷ます働きがあります。
エンジンと、冷却水及びラジエーターのような関係ですね。
実際ひとのからだは常に余剰な熱を産生しており、その熱を発散すべく汗をかいたりなど熱を逃がす機能が備わっています。
そのからだの冷却機能が停止したのが熱中症で、そうなると熱が旺盛になり過ぎて死亡してしまいます。
逆に、寒冷な環境下に長時間いると低体温症といった状態になり、熱が少なくなりすぎても死亡のリスクがあります。
これほど極端なことは特殊な条件下でしか起きませんが、この寒熱のバランスの乱れにより、様々な症状が現れます。
東洋医学では、病気をみるときにその偏りを重要視します。
熱が多い場合
仕事や運動をし過ぎたりして活動が過多になると、活動のために陽気は盛んになって、その分陰気が消耗され、からだの中に熱が多くなります。
からだに熱が多くなると、熱の上昇する性質上、からだの上の方に症状が出やすくなります。
熱が多くて出る症状には、
- 頭痛
- 肩こり
- めまい
- 動悸
- 不眠
- 歯痛
- 咳、のどの痛み
- 耳鳴り
- 口内炎
- イライラ
- 食欲亢進(→肥満)
- 胃痛
などがあります。
またどの経絡に熱が波及するかによって、からだの上の方ばかりではなく、様々なところに症状が出ることもあります。
- 手足のほてり
- 便秘
- 各種皮膚病
- 膀胱炎
- 腰痛
- 膝痛
- 痔
などが挙げられるでしょうか。
陰が虚した症状なので、陰虚証といいます。
陰が虚すということは、五臓のどれかに虚があると考えます。
どの臓が虚しているのかによって、肝虚陰虚証(肝虚熱証)とか腎虚陰虚証(腎虚熱証)というような証立てになります。
冷えている場合
陰虚の状態が続くと、結局陽も使い果たされて減っていき、からだは冷えていきます。
働き過ぎてなお頑張り続けるうちにその元気もなくなり、うつっぽくなって引きこもってしまったりするように、いずれは活動ができなくなるのです。
つまり陰も陽もなくなっていくのが冷えで、陽が虚すので陽虚といいます。
この場合の症状は全身にでます。
- 元気がない
- 疲れやすい
- ため息
- 立ちくらみ
- 手足の冷え
- 風邪をひきやすい
- 不正出血
- 胃腸虚弱
- 食欲がなくなる
- 下痢
- 口に唾液が溜まる
- 何もしないのに汗をかく
- 性欲減退
などがあります。
また、陽虚までいかなくても部分的に冷えているという場合は多いです。
その場合は冷えているところに症状が出ます。
- 関節痛
- 神経痛
- 腰痛
- 頭痛
- 咳
- 腹痛
などです。
虚している臓によって、脾虚陽虚証(脾虚寒証)とか、肺虚陽虚証(肺虚寒証)とか言います。
陰虚証で単純な機序の場合は、余計な熱をさばくことで症状の改善がみられますが、原因が複数の臓からきていたり、寒証全般はよくしていくのに時間がかかります。
特に寒証は、ただ温めればよいのではなく、陽というエネルギーを作り出すところから治していかなければならないからです。
高齢者の冷えは、加齢によってその働きが衰えているので治りにくいですし、出産などで血を失ったことから陽虚証になっている場合は、血を増やしていかないと治りません。
同じ頭痛でも、一回の治療でスッキリする場合と、なかなか治らず繰り返してまうのには、このような原因の違いがあるのですね。
寒熱いずれの場合でも慢性化すると治りにくくなりますので、からだの不調を感じている時は、早めにケアを考えてみていただきたいと思います。
不育症に対する鍼灸治療の取り組み
不育症とは、妊娠に至っても流産となってしまうことを繰り返してしまう状態をいいます。
不妊症はなかなか妊娠しない状態を指しますので、症状としては別になります。
つまり不妊症の方が不育症になるかどうかは別のことです。
妊娠初期に流産となってしまう確率は約15%ですが、年齢が上がるにつれてこのパーセンテージも上昇しますので、年齢によって不育症になる確率も違ってきます。
流産の原因のほとんどは胎児の染色体異常や遺伝子の病気などで、母体側が原因となることは多くありません。
母体側の原因として、抗リン脂質抗体症候群や子宮奇形(子宮形成不全)、甲状腺機能の異常などがある場合もありますが、特に原因を特定できない場合が多く、不育症の母体側の原因はまだよくわかっていないことの方が大きいのが現状です。
母体側にほとんど原因がないのにもかかわらず、何度か流産を繰り返してしまうと自分に原因があるかのように考えてしまいがちです。
こどもが授からないのは決して病気ではないのに、不育症と言ってしまって悪いことのように考えてしまうのは、かえってしんどいようにも思います。
とはいえ、東洋医学では、 なかなか妊娠しない状態について古典に記述がみられます。
また、不妊、不育症と区別せずに考えます。
原因は同じと考えるからです。
その原因について、「母血その精を養うに足らざるときは、則ち胎孕を致すことあたわず~」(病因指南)とあるように、血が不足していると妊娠できないと考えています。
また、脈経という古典には、胎児を養う臓腑について記載があります。
それによると、1か月目は肝、2か月目は胆、3か月目は心包~10か月目は膀胱経と月ごとに決まっています。
この1か月目の肝は、血のコントロールを担っている臓です。
この肝が虚していると、妊娠に十分な血を確保できないので、妊娠に至らないということになります。
なぜ血が不足した状態になるのか。
血が不足している状態は肝虚証と言い換えることができます。
肝虚証になる原因は血を消耗するからですが、もっとおおもとまでさかのぼると、五臓の関係性で、肝の親にあたる腎が虚しているために肝もその影響を受けてしまうことによります。
運動しすぎたり、過労で無理して一時的に血を消耗したものよりも原因が深いのです。
五臓の関係性についてはこちらをご参照ください↓
腎は生命活動にかかわる臓で、生殖、成長に寄与し、腎が衰えていくことで老化が進みます。
不妊の遠因には、腎の虚も考えなくてはなりません。
そのために、鍼灸での不妊治療は、肝と腎を補う治療を行います。
また血が不足した状態というのは、からだを温める血が足りないので、熱が足りていないことになります。
本来はからだがもっと熱を作れる状態でありたいのですが、それを待っていられないので、お灸などでしっかりとからだを温める治療も同時に行います。
地道ではありますが、少しずつ補っていくことで、本来のしっかりしたからだを作っていきます。
不妊や不育症に対して、こういうアプローチもあるんだな、と参考にしていただけたらうれしく思います。