不育症に対する鍼灸治療の取り組み
不育症とは、妊娠に至っても流産となってしまうことを繰り返してしまう状態をいいます。
不妊症はなかなか妊娠しない状態を指しますので、症状としては別になります。
つまり不妊症の方が不育症になるかどうかは別のことです。
妊娠初期に流産となってしまう確率は約15%ですが、年齢が上がるにつれてこのパーセンテージも上昇しますので、年齢によって不育症になる確率も違ってきます。
流産の原因のほとんどは胎児の染色体異常や遺伝子の病気などで、母体側が原因となることは多くありません。
母体側の原因として、抗リン脂質抗体症候群や子宮奇形(子宮形成不全)、甲状腺機能の異常などがある場合もありますが、特に原因を特定できない場合が多く、不育症の母体側の原因はまだよくわかっていないことの方が大きいのが現状です。
母体側にほとんど原因がないのにもかかわらず、何度か流産を繰り返してしまうと自分に原因があるかのように考えてしまいがちです。
こどもが授からないのは決して病気ではないのに、不育症と言ってしまって悪いことのように考えてしまうのは、かえってしんどいようにも思います。
とはいえ、東洋医学では、 なかなか妊娠しない状態について古典に記述がみられます。
また、不妊、不育症と区別せずに考えます。
原因は同じと考えるからです。
その原因について、「母血その精を養うに足らざるときは、則ち胎孕を致すことあたわず~」(病因指南)とあるように、血が不足していると妊娠できないと考えています。
また、脈経という古典には、胎児を養う臓腑について記載があります。
それによると、1か月目は肝、2か月目は胆、3か月目は心包~10か月目は膀胱経と月ごとに決まっています。
この1か月目の肝は、血のコントロールを担っている臓です。
この肝が虚していると、妊娠に十分な血を確保できないので、妊娠に至らないということになります。
なぜ血が不足した状態になるのか。
血が不足している状態は肝虚証と言い換えることができます。
肝虚証になる原因は血を消耗するからですが、もっとおおもとまでさかのぼると、五臓の関係性で、肝の親にあたる腎が虚しているために肝もその影響を受けてしまうことによります。
運動しすぎたり、過労で無理して一時的に血を消耗したものよりも原因が深いのです。
五臓の関係性についてはこちらをご参照ください↓
腎は生命活動にかかわる臓で、生殖、成長に寄与し、腎が衰えていくことで老化が進みます。
不妊の遠因には、腎の虚も考えなくてはなりません。
そのために、鍼灸での不妊治療は、肝と腎を補う治療を行います。
また血が不足した状態というのは、からだを温める血が足りないので、熱が足りていないことになります。
本来はからだがもっと熱を作れる状態でありたいのですが、それを待っていられないので、お灸などでしっかりとからだを温める治療も同時に行います。
地道ではありますが、少しずつ補っていくことで、本来のしっかりしたからだを作っていきます。
不妊や不育症に対して、こういうアプローチもあるんだな、と参考にしていただけたらうれしく思います。