鍼灸治療はどこで生まれた?
鍼灸治療はその名のとおり、鍼(はり)ともぐさを燃やすお灸を使ってからだの不調を取り除く療法です。
でも、なぜはりやもぐさを使って治療することになったのでしょうか?
からだに針を刺すとか、もぐさを乗せて燃やすとか、、なかなかですよね、考えてみると。
鍼灸治療が生まれたのは古代の中国なのですが、その発生にも理由があり、その解説も黄帝内経という古典に記述がみられます。
それによると、地域やその気候にもとづいたニーズが、それらの治療法を生んだということがわかります。
どういうことか、地域ごとに説明していきます。
北方
北の地域では、お灸による療法が発達しました。
北は寒い地域ですので、冷えによる不調になりやすいのは分かりやすいと思います。
そのため、からだを温める治療が必要となったわけです。
火にあたると温まりますが、それを病変の起きているところや治療によいポイントなどに集中的にもってくることはできないか。
それを目指して試行錯誤した結果、もぐさを皮膚に乗せて燃やせば、極限まで火をからだに近づけることができ、温かさをからだの奥に届けることができるとわかったのだと思います。
南方
南の地域では鍼による療法が発達しました。
南は暑い地域ですので、よく汗をかきます。
また、暑い(暖かい)ので、からだを動かすことが苦にならず、肉体労働が多くなります。
筋肉をよく使い、汗をかくと、筋肉はひきつりやすくなります。
ひきつった筋肉のけいれんを弛めるのに、強い刺激はかえってよくありません。
小さいけれど効果的な刺激を与えるのには何がよいか。
いろいろ試してみた結果が、鍼だったのだと思います。
古代から現代に至るまでに鍼はどんどん繊細さを追求されていき、今や髪の毛と同じ細さのものが用いられるようになりました。
細い鍼でも充分効果があるのは、これまでの臨床結果の積み重ねによるとも言えます。
東方
東の地域では、外科的な療法が生まれました。
東は中国では海に近いところになります。
海に近いと海産物を多く摂るので、塩分の摂取が多くなります。
塩分過多の食生活をしていると、血が粘りやすくなり、できもの(腫瘍)ができやすくなります。
それを取り除くために、それを切開するへん(石へんに乏)石という、楔型の石塊が用いられるようになりました。
へん石は、中国最古の医療器具と言われています。
現在残っている道具を使う療法では鍼と統合していったと考えられます。
西方
西の地域では、薬による療法が発達しました。
西は山や草原のある地域になります。
放牧が盛んで家畜の肉や乳を食すので、からだは太りやすく、内臓に問題が出やすくなります。
そのため、からだに薬を取り込んで治療する方法がとられるようになりました。
薬になる材料も、山や草原から確保できます。
これが現在の漢方薬の原型と言われています。
中央
国の中央では、運動や按摩(あんま)による療法が盛んでした。
中央はつまり政治の中心地、都があるところです。
つまり都会ですね。
都会なので肉体労働より頭脳労働が多くて運動不足になる上、よい食べ物が手に入り易いことや湿度が高めの気候の影響で、気血の巡りが悪くなりやすいのです。
運動による療法は導引といい、古典には動物の動きを真似たものや、呼吸の方法が工夫されたりなど、様々な動作が紹介されています。
現在ヨガやピラティスが盛んな様子と似ています。
按摩についても同様です。
これも現在マッサージを受ける人が多いことと共通していますね。
東西南北と中央で、五行に準じて説明がされていますが、若干こじつけっぽいところもあります。
それでも治療法として現在まで続いているわけで、膨大な臨床データと研究の積み重ねが現在の治療法として確立されていると考えると、東洋医学は理論もデータも踏まえた信用できる医療体系だと考えられると思います。
それをいかに治療に活かせるかは、治療を行う私たちにかかっているわけですが。
古典や文献をすべて読み尽くすこともできませんし、一生勉強しても足りないなかで、よりよい治療を目指すしかないと思っています。