岸見一郎、古賀史健「嫌われる勇気」の感想。
久しぶりに読書したので、感想文を書いてみたいと思います。
「嫌われる勇気」は2013年が初版で、当時話題になっていたのは覚えていますが、自己啓発系の本はあまり読まないことや、キャッチーなタイトルなどからちょっと敬遠して手に取らなかったように思います。
それを今なぜ読んだかというと、Eテレの「100分で名著」という番組でマルクス・アウレリウスの「自省録」が取り上げられた際、ゲストとしてコメントされていた岸見一郎先生の語り口が明快でわかりやすく、難しい本の話なのに引き込まれて番組をみてしまったことがきっかけです。
そこで岸見先生の著書はどんなものがあるのかな?と調べてみたところ、この「嫌われる勇気」が検索され、あぁこの本を書いた人が岸見先生なのかと知った次第です。
「嫌われる勇気」は、アドラー心理学について、哲人と青年の対話形式で紹介していく内容です。
アドラーというと、ユングやフロイトに比べると知名度が低いですが、心理学の3大巨匠とも言われていて、特に最近注目されている心理学の大家です。
ユングやフロイトを詳しく知っている訳ではないので比較はできませんが、人間の幸福について、それぞれ独自の考え方で迫ってみているということは同じなんだろうと思います。
最近注目とはいえ、アドラー心理学の考え方は革新的という訳ではなく、むしろ普遍的なことを言っています。
それは足るを知る、一期一会などといった禅や仏教の教えにもみられるし、ブルーハーツの歌詞など身近なところにも似たようなものを見つけることができます。
ただそれを、一部の才能がある人や高尚な人格の人だけがたどり着けるものではなく、誰でもできるんですよ、としているところが新しく、優しいところではないかと思いました。
そういう意味では、動的幸福論というか、幸せになる道筋を実践的で合理的な方法論で切り開いていこうとしていて、机上ではなくフィールドワークの学問という感じがします。
誰でも幸せになりうる。トラウマの否定。すべての苦悩は人間関係にあり。など、端的な言葉でスパスパッと論理が展開されて、痛快ですらあるんですよね。
「課題の分離」「人生のタスク」「人生は連続する刹那である」とか、言葉のチョイスもなんかかっこいいし。
執着や依存を捨てて個人として自立し、人と対等な関係を築くことを目指すので、実際ハードル高めな気もしますが、言っていることは最もなので納得はいきます。
しかもそれを強制しなくて、あとは自分次第ですよ、としてます。
水辺に馬を連れてくることはできるが、水を飲むかどうかは馬次第、ということです。
タイトルの「嫌われる勇気」とは、 人からの評価を気にして自分の行動を決めるのはほんとの自由じゃない、ほんとの自由でなければ他人との対等な関係は築けないということなんですね。
他にもいろいろと示唆に富む指摘が次々に出てきて、哲人は青年の問いに丁寧に答えていきます。
青年の卑屈な質問がずっと続くのがちょっと気分が悪いですが、テレビで拝見した岸見先生の穏やかな姿が浮かび、先生と話しているような気持ちになります。
印象に残ったのは、最後の方の、普通である勇気というくだりで、特別なことをしたり特別な存在であろうとする必要はなく、普通の、凡人の自分でいいんだと自己受容することの大切さを説いているところです。
アドラー心理学は受け入れるのにある意味勇気が必要ではありますが、最終的には悩める人に寄り添った、ただ単に合理的な論理でない優しさを内包していると感じました。
普段は意識してなくても、何かに悩んだり迷ったりしたときに思い出し、前に進むヒントになればいいなと思います。