女性のための鍼灸院 すばるのブログ

横浜市港北区大倉山。静かな町の片隅にある鍼灸院です。鍼灸を通して、妊活、美容鍼、更年期などの女性のお悩みに取り組んでいます。

吉村昭「東京の戦争」 の感想。

吉村昭が小学生の頃に経験した戦時下を過ごした回想記。
彼らしい非常に客観的な視点で淡々と記述されているからこそ、余計に戦争が日々の暮らしを脅かし、破壊していくさまが生々しく描かれている。
二階の物干し場で凧揚げをしていた時にみた戦闘機の操縦士の姿、通っていた寄席の落語家が出征するために去っていくといった日常の変化はやがて、東京大空襲の中決死の避難を経て、焼け野原と化した町から生活を立て直していく。
目線は「この世界の片隅に」に似ている。
徐々に壊されていく日常を前に、庶民はなすすべなく受け入れていくしかない。
戦争は政治的に始められてしまうし、そこに至るまでに止める術はあったのかといえば、難しい。
けれども、戦争は自然災害と違って、人間が能動的にやるもの。
人間がやることを、人間が止められないのか。
答えを出すのは難しい。
止められたことって、ないから。
それでも平和を願うことは、止めてはいけないんだろうなと思います。
止める力はないけど、願い続けなくてはいけないと思うのは、人の心が簡単に変わってしまうから。
本の中で、戦時下の隣近所の人たちが怖かったという話がでてきますが、戦争の恐ろしいのはモノや生活を破壊するだけでなく、人の心も変えてしまうというところではないでしょうか。
平和を願うというのは、自分自身を振り返ることでもあると、考えてみたりします。
自分だってあの状況にいたら、万歳して出兵を見送ってたかもしれないから。
一方で、戦後の人々のたくましい生活の描写もなんだか胸を打つというか。
つくづく、人間のベクトルは生きるという方向に向いているんだなと思います。
近所の怖かった大人も、駅で優しくしてくれた大人も、同じ人間。。
戦前から戦後の東京の空気を感じ取ることができる、良書だと思います。

東京の戦争 (ちくま文庫)

東京の戦争 (ちくま文庫)