スピッツ16thアルバム「見っけ」をレビューしてみます。その3
スピッツのニューアルバム「見っけ」のレビュー3回目。
9はぐれ狼
シンプルなロックナンバーで一息、という感じでしょうか?
タイトルやイントロがワイルドなのに、Aメロに入ってちょっとフラットになるので最初は、ん?となりましたけど、ギターのリフがいいです。
ロックって、突き詰めていくとクロマニヨンズみたいなシンプルなエイトビートに向かうのかなとかなんとなく思っていましたが、そんな単純ではないんだなと思いました。
やっぱりバンドごとに違うし、それがよいのですね。
10まがった僕のしっぽ
イントロのフルートでそうきました?と思ったら、あれ?ワルツのリズムですか。からの→まさかのヘビメタですよ!
3拍子って割と楽し気な曲に多いと思うんですが、メロディーはマイナー調だし、いろいろチャレンジングな曲です。
マサムネさんはデビュー当時、自分の声が好きじゃないと言っていたそうですが、確かにヘビメタがヘビメタに聞こえない透明感のある声は、やりたい音楽との差を感じたかもしれないですね。
バンドサウンドがあれだけドカドカしてるのに、彼のボーカルが乗っかると切ない感じになってしまうとは。
歌詞もアウトローな内容ですが、今までの引きこもった感じからもっとたくましくなっていてカッコいいですね。
まがった僕のしっぽとは、一般的な世間とは相容れない、どうしても譲れない自分の信念を言ってるのだろうなと思います。
リズムがヘビメタ部分の歌詞はなかなかのハードボイルドさで、今スピッツがこの歌詞を歌うというところにとても意味を感じます。
ヘビメタのあとはまた最初のメロディに戻るのですが、ハードな部分が哀愁あるワルツのリズムに挟まれているのが、熱い気持ちを内に秘めてる感じがしていいなあ。
まがったしっぽを下ネタで解釈する向きもあるようですが、マサムネさんご本人もそれはわかっているとインタビューで話していました(笑)。
11初夏の日
10年以上前に京都公演限定で披露されていた曲とのこと。
そういうこともライブはあるんですね。聴いたことがある人うらやましいな。
スタッフさんが今回のアルバムに入れることを提案したそうですが、アルバムの雰囲気にあっていていいですね。
素敵なふたりの話、”朱色の合言葉 首筋をくすぐる”って、キスのことかな?なんて想像を巡らせていたら、”そんな夢を見てるだけさ”って?それ夢だったの!?
Cメロで前向きになった感じしたと思ったらサビでまた夢と言われ、なんだか気持ちの置き所に迷ってしまう歌ですが、メロディがとても美しいのでそんなのどうでもよくなって、聴くたび毎回曲に身をゆだねてしまいます。
12ヤマブキ
出だしから声を張ってるし、バンドもドン、ダン、ドーン!って突き抜けちゃってるし、サビではまた高音で声を張っているし。
最初からずっと声張ってる曲って、スピッツではあまりないと思うんですよね。
低いところからサビにかけて上がっていく曲が多い。なのに。
歌詞も”突き破っていけ”とか、”よじ登っていけ”とか元気がいいんです。
全然小さくまとまってない。
そんな若い時もあったね、という懐古的なことでもない。
ボーカル以外だって、ギターも音歪みまくって熱いし、リズム隊もがっつり支えてますって感じで。
アルバムの最後の曲がこれだもんね。
いろいろ周りが言おうとも、スピッツはこんな感じでこれからもやっていくんで!と宣言されているみたいで、ファンとしてはなんとも嬉しくなる曲です。
13しばらく聴いた後の感想
なんでもそうですが、長く続けていると円熟していきコクのような重さや奥行きが出てくるものだと思うのですが、このアルバムはそんな後味を楽しませてくれる一方で、一口目の爽快な気持ちよさにほんとに驚かされました。
音のバランスのよさ、曲の完成度、熟練の技による演奏や歌唱などが安定感と安心感をもたらしてくれるからといって、それが渋い大人の楽しみに収まっていない。
このアルバムは、若作りしないそれなりの年相応の見た目なのに、いつまでも変わらないと言われるスピッツの現在そのものの姿なんだなと思います。
世間の求める、ポップで少し暗いでも前向きな、という従来のスピッツ像に寄せることもなく、かといってわかる人だけわかればよいという意固地な姿勢もなく、自然体で自分たち独自の道を「見っけ」ている訳で、こういう道をたどれるスピッツに感動すら覚えました。
年齢によってそれなりの生き方とか考え方を求められがちだし、そうあるべしという圧力もあるけど、自分らしく生きる道も「見っけ」られるんだなという希望が湧いてくる、とっても素敵なアルバムです。
おわり。