女性のための鍼灸院 すばるのブログ

横浜市港北区大倉山。静かな町の片隅にある鍼灸院です。鍼灸を通して、妊活、美容鍼、更年期などの女性のお悩みに取り組んでいます。

産後うつは他人事ではない

 昨日のニュースで、出産後1年以内の女性の死亡原因の1位が自殺だとのニュースが報じられていました。

30代の死因の1位が自殺ではあるのですが、産後うつの可能性は否定できないと思います。

産後うつの原因は、ホルモンバランスの急激な変化、孤立した環境下での育児、睡眠不足、育児に対する責任感などと考えられていますが、もともとの性格や妊娠中の状況など様々な要因があると言われています。

産後うつの怖いところは、劇症(灸で激しい症状)で現れるところです。

当院にも産後うつの患者さんがいらしたことがありましたが、妊娠中はむしろメンタルがしっかりしていたのに、出産後2週間を過ぎたころから急に不安がこみ上げてきたと話されていました。

 

さて、産後うつ東洋医学的に考えると、決して珍しいことではなく、むしろ誰にあっても全然おかしくない症状です。

東洋医学的にみた産後うつを考えてみたいと思います。

 

血を消耗している

生きていくのに必要なからだを巡る成分に、気・血・津液というものがあります。

妊娠中は胎児を養うため血が消耗しますが、出産での出血でも血が失われます。

さらに母乳も血が変化したものなので、授乳で血が消耗されます。

また、赤ちゃんから目が離せないという常時緊張した状態も血を使います。

妊娠から出産後にかけて、継続的に激しく血を消耗している状態なので、からだを支えるシステム(肝・心・脾・肺・腎)のうち、血を司っている肝が虚します(肝虚証)。

睡眠不足は陰(からだを鎮める作用)を傷つけるので、陰虚も加速しますから、肝虚と合わせてイライラや便秘、頭痛、肩こり、なども出てきます。そうして熱も少なくなると肝虚寒証になり、うつ傾向になります。

 

腎虚になっている

腎は生殖機能を司っているために、妊娠出産で虚しやすいです。

さらに、腎の働きの一つである、体に必要なものを引き締めて維持する機能がありますが、出産はあえてこの機能が緩み、腎虚の状態になります。

そうすることで胎内にとどまっていた赤ちゃんが出産されるようになります。(腎虚にならないと難産になります。)

しかし腎虚が回復しないと、出血や尿漏れ、脱毛などが起こりやすくなります。

腎は津液を必要としますが、腎虚になることで津液も消耗され熱が発生しやすくなりますので、不眠やだるさなどが出やすくなります。

また腎は心との関係が深いので、動悸や不整脈、精神状態に影響があります。

 

陰虚から陽虚へ

肝や腎が虚すことで、始めは陰(血も陰に属す)が消耗されて、相対的に熱が多くなり虚熱が発生します。しかし血はそれ自体熱を持っているので、血が激しく失われていることで陽(からだを温める作用)も少なくなります。

そうすると次第に寒証(陽虚証)に傾き、陰も陽も虚した状態になってしまいます。

すべての陽がなくなる=死なので、最後の砦の心には熱が残りますが、心にだけ熱が残るというアンバランスな状態が、心の支配する精神状態に影響してしまいます。

 

もともとの体力、体質、年齢の差はありますが、これだけのことが出産を機に急激に起こるので、産後はかなり丁寧な養生が必要な時期といえます。

ただでさえ心身を回復させなければならない時期に、新生児のお世話を24時間しなくてはいけない。

そのことがからだにとって如何に異常な状況下にあるか。

妊娠出産は病気ではないなんて言われ方もありますが、そう思って普通の生活をしようとすると、自分が産後うつだと自覚する間もなく、症状が悪化する恐れがあります。

自分は大丈夫だろうと思わず、出産前から起こりうることとしてパートナーと話し合っておいたり、サポート体制を考えておくことが大事ではないかと思います。

鍼灸治療も力になれるので、選択肢の一つに考えておいていただけたらうれしいです。